2.12.2010

「ウォッチメン」原作コミック解説(25) CHAPTER 8 [P273〜P276]

<P273>
P254で、ゴッドフリーとシーモアの二人が懸命に仕上げていたのがこれらの紙面。

ポール・リヴィアの夜行:アメリカ独立戦争初の武力衝突となったレキシントンの戦いにおいて、伝令ポール・リヴィアは、イギリス軍の襲来を夜を徹して各地に伝え続け、後に愛国者の鑑と称えられた。

アラモの戦い:1835年、メキシコ領テキサスにおいて、アメリカ人入植者がメキシコからの独立を目指し蜂起。テキサス独立戦争が始まった。翌36年、アラモ砦に立てこもった155人のテキサス守備隊を、4千人のメキシコ軍が包囲。激戦の末、守備隊は全滅したが、復讐に燃えるテキサス独立軍はメキシコ軍を破り、独立を達成。1845年にアメリカ合衆国に加盟した。

ゲティスバーグの演説:1863年11月19日、南北戦争(1861〜1865)の天王山となったゲティスバーグの戦いの戦死者を弔う式典で、時のリンカーン大統領が行った演説。「人民の、人民による、人民のための政治」の一節は、あまりにも有名。

<P274>
マルキスト:ドイツの革命家カール・マルクスの掲げる科学的社会主義の信奉者。

ボストン茶会事件:1773年12月16日、植民地時代のアメリカで、逼迫した財政を植民地への課税によって補おうとしたイギリスへの不満が契機となって発生したイギリス船襲撃事件。アメリカ独立戦争の発端となった。

ローン・レンジャー:1933年にラジオでデビューした西部劇のヒーロー。本名ジョン・リード。テキサス・レンジャーの一員であった彼は、悪名高い強盗団のリーダー、ブッチ・キャベンディッシュ(映画『明日に向かって撃て』で有名な無法者ブッチ・キャシディがモデル)によって重傷を負わされるが、インディアンの友人トントの看病によって一命を取りとめた。自らの死を装った彼は覆面で正体を隠し、トントと愛馬シルバーと共に、西部に正義をもたらすことを誓ったのである。ちなみに、同じ原作者が創造したクライムファイター、グリーンホーネットは、ローン・レンジャーの甥の息子という設定。

ローン・レンジャー。写真は1949年〜1957年のテレビシリーズ。


1979年のベイルートの報復爆撃:ベイルートは中東レバノンの首都。第二次大戦中にフランスから独立したレバノンは、キリスト教徒も多く、リゾート地としても知られていたが、パレスチナ解放機構が活動拠点としたことから各宗教間のバランスが崩れ、1975年に内戦が勃発した。シリア、イスラエルなど、隣国を巻き込んだ内戦による混乱は、21世紀の現在まで尾を引いている。アメリカは1982年に多国籍軍の一員としてレバノンに進駐しているが、1979年の報復爆撃とは本作の創作である。

<P275>
鎖で後ろ手に縛られ、マルキストのダグ・ロスに覆面を剥がされたヒーローに襲いかかろうとしているのは、麻薬問題に少年非行、金に飢えた巨大企業に組織犯罪(ネクタイに描かれた黒い手(ブラックハンド)は、犯罪結社の象徴)。さらにその背後にはソ連が控えている。
このピンチにもかかわらず、一般大衆は無関心どころか眠りこけ(背中に「ジョン・Q・パブリック」と書いてあるが、これは平均的アメリカ人男性を指す言葉で、日本で言えば「山田太郎」のようなニュアンス)、ニューヨーク市警は"キーン"のフラッグを振って囃し立てている。善良な家族は成す術もなく立ち尽くすだけで、自由の女神も涙を流すことしかできない。しかも、これが最終ラウンドなのだ。このイラストを描いたのは、バーニィが読み続けている「漂流者」のアーティストだった、ウォルト・ファインバーグ(左下のサインに注目)。

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ノーマン・レイスP329 PANEL2参照。

ハイラ・マニッシュP255参照。

ジェイムズ・トラフォード・マーチ:他の人間はヴェイトの計画のために集められたが、作家はマックス・シェアがいるので、もう一人必要とは思えない。純粋に経済的な問題で失踪したと考えるのが自然だろう。

リネット・パリーP329 PANEL2参照。

ウィットネティカー・ファネッセP329 PANEL3参照。

ロバート・デスチェインズ:盗まれた脳の行方については、P329 PANEL3参照。